「祖国を失う以上の悲しみがあろうか」 -エウリピデス

はじめに:チベットは1949 年に中国が侵攻してくるまでは独自の豊かな文化、言語、通貨を持つ独立した国家だった。 10 年に及ぶ和平交渉が破綻した1959年、チベットの宗教的、政治的指導者であるダライ・ラマ14世法王は、インドへの亡命を余儀なくされた。それ以降、何万人ものチベット人がダライ・ラマに続いてヒマラヤ山脈の危険な道を越えて、インド、ネパール、ブータンへ亡命し、難民生活を送っている。

現在のチベットでは、非暴力での抗議活動や宗教の自由を要求すれば、必ず懲役や拷問が待っている。2009年以降130人以上のチベット人が、チベットの自由と、中国が犯罪者として扱うダライ・ラマの帰国を求めて、公共の場で焼身抗議を行った。

しかし弾圧を逃れて祖国チベットを捨てるのも厳しい選択である。深い疎外感に苦しみ、家族の絆が壊れ、何世代にも渡ってこの苦しみを抱えていくのだから。ダライ・ラマを慕い、チベット仏教の教えに支えられながらも多くのチベット難民は、今も亡命時に負った心の傷に苦しんでいる。国境の内に留まる者も、外へ超えた者も文化殺戮によって、自らのことばと伝統を奪われる恐怖に常にさらされている。

ここに出てくるのは、どこにでもいるチベット難民たちの当たり前の日常の風景である。困難を耐え抜いた一人ひとりの物語、そこには彼らの苦しみを遥かに超えたものが詰まっている。